うどん (日本大百科全書から)

 〔饂飩〕 
 小麦粉を食塩水でこね、薄く延ばして細長く切ったもの。奈良時代に中国から唐菓子として初めて渡来したが、それは、小麦粉の団子に餡(アン)を入れて煮たもので、形が不定形なので混沌(コントン)といった。のちに食偏にかわり、また温飩(ウンドン)となった。もっとも日本でいうう飩は、伊勢貞丈も指摘するように切麦(キリムギ)であり、その源流はむしろ同じ中国の水引餅(スイインヘイ)(引きのべうどん)に求めるとができよう。切麦は熱麦(アツムギ)・冷麦(ヒヤムギ)の2種があったが、現在は熱麦の語は失われている。平安朝の大宮人は温飩を「ぞろ」または「ぞろぞろ」と親しみやすいことばでよんでいた。温飩ということばは平安時代からあり、やがて温飩から饂飩(ウドン)と転じるのだが、それには約100年の年月がかかっている。室町時代にうどんの名称が出てくるが、いまでも地方のどこかに「うんどん」の名称が残っているだろう。大正時代に、山中の茶店で「んどん」と書いた文字が見られたが、これはうんどんと読ませるのであろう。江戸初期に大坂ではうどん屋ができて、まもなくそばを兼業し始めた。うどんが主でそばが従だから「うどんそば」の看板が見られた。江戸でもうどん屋がそばを従としていたが、そばの売れ行きがいいので、やがてそばが主となり、「そばうどん」の看板が用いられるようになった。

 〔古い中国のうどん〕
 うどんの歴史の古いのは中国である。イタリア名物のマカロニは、13世紀にマルコ・ポーロが元朝を訪れてうどん作りの秘法を会得して帰り、つくりあげたという説もある。中国のうどんの始まりは、『漢書(カンジヨ)』の「百官表」に「小府屈有湯官、主餅餌買餅」とあるので、だいたい2000年前の漢時代とみてよかろう。下って魏(ギ)晋(シン)の時代には、広く知れわたって流行物となった。『語林』に、「魏文帝が何晏(カアン)という人に熱湯餅(トウヘイ)を賜う」という記録が出ている。そのころうどんを湯餅といっていたが、まもなく「不托(フタク)」に変わっている。うどん粉をこねて手のひらの上に托して丸め、長形の団子にしてゆでたものが湯餅であるが、棒で延ばしてから包丁で切るようになってからは、手を借りないでつくるのだから「不托」という名称にした、といわれている。湯餅の名はその後も使われている。

 〔うどんの作り方〕
 国産の優秀な小麦粉を使えば、手打ちうどんの味は一段とよくなるが、現在97%の小麦粉は輸入である。国産の小麦粉の生産は少ないから、入手はむずかしくなっている。うどんをつくるには、小麦粉1キログラムに薄い塩水カップ一杯半を加えてこねる。これを杵(キネ)で搗(ツ)くか、茣蓙(ゴザ)などに包んで足で踏むかしてよくならし、麺板(メンバン)にのせ、麺棒で伸ばしてから切る。今日では機械製麺して乾燥させたうどんが一般的である。

 〔うどんの郷土色と種類〕
 うどんを名物とする郷土料理の数は多い。地名を上につけての讃岐(サヌキ)うどん(香川県)はよく知られ、いまでも全国的に店を出したり、乾麺を販売したりしている。名古屋の「きしめん」も有名だが、この名称のおこりには諸説がある。殿様に献上のため雉(キジ)肉を加えたのが「きじめん」で、かわりに油揚げを用いて名前だけは「きしめん」としたという説、紀州の人が作り方を教えたので「きしゅうめん」といったのが、「きしめん」に転じたという説などがある。これは平打ちのうどんでひもかわともいう。皮紐(ヒモ)に似ているなら、「かわひも」というべきであろうが、「ひもかわ」というのはおかしいと、江戸の作家柳亭種彦(リユウテイタネヒコ)はその随筆集『用捨箱』のなかで論じており、愛知県刈谷市芋川(イモカワ)のうどんの意であろうとの説も取り上げている。

  群馬県前橋地方には「切り込み」という郷土料理がある。この地方の地粉が優秀なので、秋から冬にかけてよくつくられる。小麦粉に水を加えてこね、よく延ばし、できるだけ薄くして幅1センチの短冊形に切る。これは1種のうどんである。まず煮干しのだし汁を調味し、その中にサトイモ、ダイコン、インゲン、ネギ、油揚げなどを入れて煮、うどんを加え、さっと煮てから火から下ろし、蒸らして食べる。山梨県の「うどん飯」は、うどんを煮込んでその中に飯を加えたもので、この地方の味は格別である。武田(タケダ)汁の名前のうどん料理も山梨県のものだが、これは「ほうとう」の名のほうが一般に知られている。岐阜県の郷土料理の「煮ごみ」は煮込みの意である。煮だし汁に赤みそ、手打ち生うどん、鶏肉、油揚げを入れて弱火で煮込み、下ろすときにネギを加える。この料理には土鍋(ドナベ)を用いるとよい。大阪の「うどんすき」は、うどんと具を煮ながら食べる鍋物の一つで、その名は美々卯(ミミウ)という業者が所有しているが、これに類したものはあちこちでつくられている。また大阪の「素うどん」は、何も種(タネ)を加えないでうどんの美味を味わおうというものである。関東の「鍋焼きうどん」も有名で、全国に行き渡っている。関東の「力うどん」、関西では「かちんうどん」と称して、うどんかけに餅(モチ)を加えたものも人気がある。うどんを製するとき食塩が必要とされるのは、小麦粉中のタンパク質よりグルテンを形成する際、食塩が粘性を高めるからである。つまり麺の切断を防止するのに役だつ。麺類〈河野友美・多田鉄之助〉

参考文献: 【本】新島繁・柴田茂久監修『麺類百科事典』(1984・食品出版社)


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